細胞小器官(オルガネラ、organelle)の名称と機能
細胞の中あるいはそのまわりには細胞の形態や機能に直接関りをもつ種々の器官が存在する。これらのものを細胞小器官と呼び、細胞壁のように細胞膜の外に存在するものもある。いずれにしても脂質の膜で形作られている膜系細胞小器官と脂質の膜を持たない非膜系細胞小器官に大まかに分類される。しかしながら、小胞体とリボソームからなる粗面小胞体のように、膜系と非膜系の小器官が結び付いて一つの小器官となったり、CM−コンプレックスのように複数の細胞小規官が複合体となることもある。 機能や名称、働きなどのキーワードによる検索
なお、細胞小器官の名称はラテン系などの言語に由来するものが多く英語名の品詞による綴り変化が典型的な英語タイプではないものについて、その単数形とともに、複数形(pl.)及び形容詞形(adj.)を示した。
膜系細胞小器官(Membranous organelles)
細胞膜 (plasma membrane cytoplasmic membrane,
plasmalemma)
- 原形質に接して外界と細胞内部の境界となっている生体膜をいう。細胞膜は薄くやわらかい構造である緻密なリン脂質二重膜からなり内側と外側の表面に全体としてマイナスの電荷をもつため、中性分子や高分子、マイナス電荷をもつイオンなどは通しにくい。選択的輸送体が存在するときこれらに対し促進拡散、能動輸送が行われる。また、小胞との融合や食作用による高分子や多量の物質とりこみや放出の機能もある。 植物や細菌の細胞の細胞膜の外側にある硬くいが目の粗い細胞壁とは対照的である(細胞壁の項参照)。
核(nucleus, nuclei (pl.), nuclear (adj.))
- 細胞は核の分化によって真核細胞と原核細胞に分けることができる。核は染色体を含んでおり、また核膜と呼ばれる二重の袋状膜に包まれた細胞小器官である。この核膜には、RNAはじめリボソーム粒子やタンパク質が通り抜けることのできる核膜孔という穴が多数あいている。核の大きな役割は遺伝物質であるDNAによって遺伝を支配することにある。
核小体( nucleolus, nucleoli (pl.), nucleolar (adj.))
- 真核細胞の核内にある小体でリボソームRNA合成とリボソームの組み立てを行なう。
ミトコンドリア (mitochondrion, mitochondria (pl.), mitochondrial (adj.))
- ほとんどすべての真核細胞の細胞質中にある細胞小器官で、酸素呼吸(酸化的リン酸化)を行う。形や大きさは様々で、高等植物や動物では球型や円柱型が一般的である。ミトコンドリアは2枚のリン脂質二重膜で囲まれており、細胞質側に面する外膜とその内側にある内膜から構成されている。この内膜はクリスタと呼ばれるひだ状の構造をもつため表面積が著しく増大する。クリスタは、ゲル状の基質に突出している。酸化的リン酸化及び電子伝達系の構成要素はクリスタにあり、基本粒子も含まれる。ここにはATPアーゼ酵素からなるこぶし状の小粒があり、これがリン酸化に関与している。ミトコンドリア基質はクレブス回路や脂肪酸酸化の様々な酵素,環状DNA、70Sリボソームなども含んでいる。
葉緑体 (chloroplast, chloroplastic (adj.) )
- 光合成が行われる色素体。葉緑体は光合成細菌とラン藻類以外の、光合成を行なう生物の全てにみられる。直径3~10umの両凸レンズのような形で、二重の外膜に挟まれている。内側には、ラメラ系とゲル状のストロマ系がある。ラメラは一連の膜からできており、チラコイドという、液体の入った袋になっている。ところどころにグラナと呼ばれる円形のチラコイドがあり、インター・グラナ・ラメラでつながっている。ラメラ系は光合成の明反応の場で、その膜はクロロフィルとカロチノイドを含む。葉緑体は、ラメラに結合したり、あるいは、ストロマに遊離した形で葉緑体独自のリボソームを含む。ストロマには、このほかDNAの微繊維や脂質の小滴、及び光合成の暗反応の酵素をはじめ、葉緑体の可溶性の成分も含まれている。
小胞体 (endoplasmic reticulum, endoplasmic reticula (pl.) )
- 真核細胞の細胞質内に網目状に広がる膜系で形態は細胞の種類によって多様であり核の外膜との連続が認められる。膜の細胞質側表面に多数のリボソームが付着している粗面小胞体と付着していない滑面小胞体に大別される。
滑面小胞体 (smooth endoplasmic reticulum, ...reticula (pl.) )
- この機能は細胞によって異なるが一般には脂質代謝が主要な機能である。同一の細胞内に滑面小胞体と粗面小胞体が共存している場合、これらの膜はたいてい連続しており粗面小胞体にみられる酵素は滑面小胞体にも分布し、また小胞体内腔も連続しているので滑面小胞体内腔は粗面小胞体で合成された分泌タンパク質がゴルジ体分泌顆粒へと輸送される経路であるとも考えられる。
粗面小胞体 (rough
endoplasmic reticulum, ...reticula (pl.) )
- 膜の細胞質側表面に多数のリボソームが付着している小胞体で、分泌タンパク質は粗面小胞体の膜結合リボソームで合成される。これはタンパク質を細胞外へ分泌する臓器の細胞等において著しく発達している。
液胞 (vacuole, vacuolar (adj.))
- 細胞内で膜に囲まれて存在する透明な水溶液部分で、内部には糖・有機酸・アルカロイド・色素等、その細胞特有の成分を含む。正常動物細胞では認められる例が少なく、植物細胞では老化とともに大型化する。液胞はその吸水力により膨圧を生じて細胞壁の緊張状態を保たせる。これの成因は細胞の老化による老廃物の蓄積にある。
ペルオキシソーム (peroxisome,peroxisomal (adj))
- カタラーゼ及び一群の酸化酵素を含む細胞質内の小顆粒で(通常、直径0.5−2ミクロン)一重のリン脂質二重膜に囲まれており内部には細かい粒状の顆粒を含む。高等植物をはじめ原生動物、藻類などにも広く分布する。いずれもカタラーゼを含むが生物、組織の種類によっても異なる。これらの酸化酵素によってアミノ酸、アルコール、フェノール、蟻酸を酸化し生じた過酸化水素をカタラーゼで分解す
。すなわち、分子状酸素を用いて酸化作用を営む。動物細胞ではその他に尿酸分解をもち尿酸分解経路に関与する。植物ではグリオキシル酸回路をもち脂質代謝に関与する。ペルオキシゾームはミクロボディ (微小体、microbody)とも呼ばれる。
- この過酸化過程で細胞毒性の強い過酸化水素が生じこれがカタラーゼにより次のように分解され無毒化される。 2H2O2->2H2O+O2
白色体 (leucoplast)
- 地下茎、根などの正常な光条件下でも緑化しないような組織の細胞に含まれる。比較的小さく二重の包膜で囲まれているが内部には発達した膜器官はない。多くの白色体はデンプン粒をもっている。
ゴルジ小胞 (golgi vesicles)
- 特にゴルジ体から生じる小胞をゴルジ小胞という。
- ゴルジ体へ輸送されたタンパク質は、糖鎖の付加などの化学的修飾を受けてゴルジ体より細胞膜やリソソーム、液胞などに選別輸送される際にゴルジ体より生じる小胞である。
リソソーム (lysosome、 lysosomal (adj))
- 水解小体。真核細胞内の膜で包まれた細胞質構造体で、加水分解酵素に富み、細胞消化に機能する。グリコシダーゼ、ヌクレアーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、スルファターゼ、ホスファターゼ等、約60種の酸加水分解酵素を含む。一次リソソームは、消化すべき物質にまだ出合っていない、新しく形成された小器官である。二次リソソームは、一次リソソームと各種の物質との融合を繰り返して、形態的に多様に変化した膜胞である。
ディクチオソーム (dictyosome、dictyosomal (adj.))
- 1・植物細胞のゴルジ装置;2・ゴルジ小胞と液胞膜との融合によって形成される液胞;3・ゴルジ積層;4・単鞭毛菌の運動性胞子において鞭毛基部の結合部位をなす構造。
- 植物においてはゴルジに相当する平膜構造のスタックがdictyosomeとよばれ、細胞質中に独立していくつも存在している。
ゴルジ(golgi)
- 偏平な袋状膜構造が密に積層したもので、ERや核膜あるいは細胞膜などともつながっていることが多い。たん白質に糖鎖をつけたり分泌顆粒を生成したりする。特にゴルジ体から生じる小胞をゴルジ小胞という。動物細胞においては細胞核を取り囲むお椀のような形状を呈することも多い。植物細胞においては独立して存在することも多くdictyosomeとよばれる。
- 小胞体で合成された分泌タンパク質はゴルジ体へ輸送され、糖鎖の付加などの化学的修飾を受けてゴルジ体より分泌される。ゴルジ体から分泌された小胞は細胞膜やリソソームなどに選別輸送される。
タンパク質顆粒、タンパク質小体 (protein body,
protein bodies (pl)
- 植物細胞に特徴的に見られるタンパク質の細胞内貯蔵器官。特にダイズやイネなどの種子の子葉や胚乳に多くみられる。小胞体やゴルジ小胞などの細胞内膜系に由来する。貯蔵されるタンパク質は、ゼイン、グリシニン、プロラミン、グルテリン等の貯蔵タンパク質である。
収縮胞 (contractile vacuole)
アメーバなどの原生動物によくみられる袋状の器官で細胞内に侵入してくる余分な水を吸収し貯留し拡大する。やがて細胞膜へと移動して細胞膜と融合してexocytosisにより吸収した水を細胞外に排泄する。
食胞 (food vacuole)
細胞が大きな物質を取り込み消化する過程で生じる袋状の器官である。細胞質が細胞質内に陥没し物質(外液、物体、餌等)たのち外側が閉じて形成される。この取り込み過程をendocytosisという。この取り込んだ物質は食胞の中で消化されて細胞質に吸収されるなどしたのち、食胞が細胞膜と融合するという逆の過程で残物が細胞膜から外部へと排泄される。この排泄過程をexocytosis という。
グリオキシゾーム (glyoxysome)
油脂を貯蔵する植物種子の発芽過程などで貯蔵脂肪を消化して低分子にかえる働きをするmicrobodyに似た細胞器官である。
デスモソーム (desmosome)
- 細胞間結合様式の一つで接着斑とも呼ぶ。隣接する真核細胞の細胞膜の肥厚部。細胞接着に機能すると考えられている。
細胞間連絡(plasmodesmata )
- 細胞壁を通り抜け、一方の細胞から隣接する細胞へ連絡する、高等植物にみられる微細な原形質チャンネル。各チャンネルは細胞膜と連なって、二つの隣り合う細胞に共通し、通常デスモチューブルと呼ばれる微細な管状構造を成す。それは、直径約40nmの管状の原形質で、中央部に電子密度の高い物質を持つ。細胞分裂終期において形成された細胞板の不連続孔に由来すると考えられている。
- 非膜系細胞小器官(Non-membranous organelles)
細胞骨格 (cytoskeleton)
- 真核細胞の細胞質に縦横に張り巡らされて存在する蛋白質繊維系である。チューブリン(tubulin)よりなる微小管(MT: microtubule)、アクチン(actin)よりなるマイクロフィラメント(MF: microfilament)、デスミン・ビメンチンよりなる中間系フィラメント(IF:
intermediatefilament)によって構成されている網状・束状あるいは糸まり状の構造の総称である。細胞骨格は細胞の形態を規定する構造であると同時に、その連続的変形によって様々な細胞運動
としての主装置としての役割を持つ。また、細胞小器官は細胞質で浮遊しているのではなく、細胞骨格に付着して存在しており両者の相互作用によって細胞小器官の動態が支配されている。構成タンパク質に対する抗体を使った蛍光抗体法や部位特異的蛍光染色法によって細胞骨格を観察できる。細胞を低濃度の非イオン性界面活性剤で処理すると、構成繊維の安定条件を選べば、細胞骨格だけを元の構造のまま残すことができる。
中心小体 (centriole )
- 中心体の中心にある小体。動物や下等植物細胞に存在する、紡錘糸形成にかかわる自己複製小器官で、9+2構造の微小管からなる。高等植物細胞の紡錘糸形成荷は不要で高等植物細胞には中心小体は存在しない。
リボソーム (ribosome, ribosomal (adj.))
- ほぼ等量のRNAとタンパク質から成り、細胞におけるタンパク質合成の場をなす。多数の細胞下核タンパク質粒子の一つ。各リボソームはほぼ球形で、約200nmの直径を持ち、二つの大きさの異なるサブユニットから成る。これらは大サブユニット、小サブユニットと呼ばれ、細菌では30Sと50S、動植物細胞では40Sと60Sである。リボソームは細胞質に遊離状態で存在するか、あるいは小胞体や細胞骨格などに接着している。4つのクラスのリボソームが同定されており(細菌、植物、動物、ミトコンドリア)、それらは、モノマー、サブユニット、リボソームRNAの沈降係数によって特徴づけられる。リボソームはtRNAとの結合部位を2つ持ち(A部位、P部位)、mRNAにも結合することができる。
ポリソーム (polysome, polysomal (adj.) )
分子細胞生物学の表紙に戻る 分子細胞生物学研究室図書館 検索に戻る
981203 Note:
bunnshi/organel.htm=organella/organel.htm