細胞骨格・膜系の特異性と細胞進化および系統分類における意義
種々の植物及び動物より得た細胞骨格画分におけるアクチンとチューブリンの分布
研究者名
阿部俊之助、伊東庸子、土井広子、柴田幸一、安座間喜崇、*Eric Davies
所属 愛媛大学農学部生物資源学科、化学大講座、分子細胞生物学研究室
最近開発された細胞骨格安定化バッファー(CSB)を用いてマイクロフィラメントに富む画分を、被子植物、裸子植物、シダ植物、コケ植物、藻類、並びに無脊椎動物及び脊椎動物、などより得てそのタンパク質成分をSDS−PAGE並びにウエスタンブロットにより分析した。その結果、マイクロフィラメントの成分であるアクチンはすべての生物でほぼ42kDaの位置に検出され極めて保存性が高かった。微小管の構成成分であるチューブリンはシダ及びコケにおいては用いたモノクローナル抗体では検出されなかった。チューブリンのベータサブユニットはフシナシミドロとアオミドロにおいて48kDaであった以外は動植物問わず50kDaであったが、アルファサブユニットは動物ではすべて50kDaであったのに対し植物では本抗体では検出されない(フシナシミドロ、アオミドロ)か、46-48kDaと小さく高等植物に近づくほど46kDaに集束する傾向があった。また、アクチンとチューブリンがともに細胞骨格画分に見いだされる現象は、シダとコケを除いたすべての植物とマウス3T3を除く温血動物を含めたすべての動物でも観察された。
これらのことより植物のチューブリンの坑原部位のサブユニットの進化について一つの仮説が提唱できる。
さらに、シダとコケを除いたすべての生物にストレプトアビジン結合タンパク質(SBP)が細胞骨格画分に存在し、その分子量により、LSBP(60kDa>)、SBP(60-90kDa)、HSBP(90kDa<)の3種に大別されることがわかった。これらのSBP類のパターンは種により異なりまたきわめて容易に感度よく検出できるため種や品種などの分類の指標として使える可能性がある。また、本研究の細胞骨格タンパク質のパターンは生物の進化と系統に密接に関連していると考えられた。
Organism (生物) 和名 学名 |
Molecular mass(分子量) Act AT BT SBP HSBP ALP kDa |
Plants 植物 双子葉植物(dicots) エンドウ Pisum sativum オジギソウ Mimosa pudica ニンジン Daucus carota カイワレ Raphanus sativus トマト Lycopersicon esculentum |
42 46 50 78 - - 42 46 49 79 - - 42 46 50 76 - - 42 46 50 76 - - 42 46 50 78 - - |
単子葉植物 (monocots) トウモロコシ Zea mays イネ Oryza sativa モウソウチク Phyllostachys pubescens |
42 46 49 78 - - 42 47 50 78 - - 42 46 50 80 - - |
裸子植物 (gymnosperms) ソテツ Cycas revoluta イチョウ Ginkgo biloba |
43 47 50 76 - 53/72/90 42 46 50 73 - 53 |
(fern) シダ植物 ノキシノブ Polypodium thunbergianum ワラビ Pteridium aquilinum |
42/44 - - - - - 42/44 - - - 60/74 |
(moss) コケ植物 ジャゴケConocephalum conicum (algae) 藻類 車軸藻 Chara australis アオミドロ Spirogyra sp. フシナシミドロVaucheria terrestris |
42 - - 76? - -
44 48 50 78 - 60 42 - 48 90? - - 44 - 48 70 120/200 - |
Animals 動物 先口動物 サザエ Batillus cornutus クルマエビ Peneus japonicus シバエビ Metapeneus joyneri 蚊の培養細胞 Mosquito cells |
42 50 50 85? 130 42 nd nd 74 130 42 50 50 74 130 42 50 50 74 135 |
後口動物 キョク皮動物(echinoderms) ヒトデ Asterias amurensis クモヒトデ Ophioplocus japonicus バフンウニ Hemicentrotus pulcherrimus ムラサキウニAnthocidaris crassispina 脊椎動物(vertebraites) ハマチ Seriola quinqueradiata マダイ Pagrus major ネズミ培養細胞 Mouse 3T3 ラット Rat ヒト Homo sapiens(注1) |
42 50 50 76/78 140 42 50 50 74/76 135 42 50 50 76/78 135 42 50 50 75/80 140
42 50 50 75/76 113/155 42 - - 75/77 130 42 50 50(SP) - - - 42 50 50 71/74 150 42 50 50 71/75 150 |
Act, アクチン; AT, アルファチューブリン; BT, ベータチューブリン; SBP, ストレプトアビジン結合タンパク質; HSBP, 高分子量のストレプトアビジン結合タンパク質;SP、細胞骨格画分中でアクチンとチューブリンが分離するもの。 注1: ヒトのリンパ球(BおよびT細胞)