エコバイオティクス
―有機農業・有機養殖にかわる新しい定義とその例 ―
有機農業ということばがあります。このことばは、化成肥料と農薬をコアとした農業を行った結果現れてきた農作物や人への被害に対する反省と、その対策として施用された堆肥により連作障害が減り、人への危険性もなくなるというメリットが認識された結果定着したものです。すなわち、堆肥という有機物を使うから有機農業と呼び始めたものが、生態系をも意味するイメージから現在まで使用されているように思われます。
しかし、有機物を肥料として使えば、おいしく栄養価の高い農作物が安定してとれるといわれても、「本当か?」と疑いたくなりますし、「その理由は?」とも聞きたくなるのではないでしょうか?
現在では、堆肥がもつ農作物への効果は、堆肥中の微生物によるものであることが分かっています。そしてその微生物の種類、バランスが農作物の出来、不出来に大きく影響していることも分かってきています。畑や田んぼなどに堆肥を入れればよいのではなく、よい堆肥、もっと正確にいえば、農作物の生産に適切な微生物相になるように適切な微生物をいれなければいけないということです。これは農業だけではなく、水産養殖についても同じです。養殖で品質の良い生産物を安定して収穫するためには、水中および底質中の微生物相を養殖魚介類にとって適切なものにする必要があります。
私たちは、畑や田んぼ、養殖池など、農産物や養殖魚介類の生産現場の微生物相を上に書いたような状態にする技術をエコバイオティクスという概念でとらえたいと考えています。そしてエコバイオティクスのモデルとして、自然生態系を選んでいます。例えば熱帯雨林ですが、ここには何万種類という生物が生存するといわれていますが、太古の時代から連作障害がおこることもなく、病虫害によって壊滅することもなく、それら何万種類という生物が共存して生き続けているのです。
圃場や養殖池は人が経済行為として行っている場所ですから、そこの微生物相は当然自然環境の微生物相とは異なっています。そして、それがひずみとなって農作物や養殖魚介類の生産にダメージを与えているのです。この微生物相が豊かな自然生態系の微生物相と同じになったらひずみはなくなりますから、農作物や養殖魚介類の生産も順調になるはずです。
本発表では、似た概念として使われているプロバイオティクスとバイオコントロールとの関係についてもお話しする予定です。
多彩なご意見をいただければ幸いです。
<プロフィールは裏面>
プロフィール
笹平 俊(ささひら たかし)
生年月日: 1945年6月18日生
出身地: 東京都練馬区
最終学歴: 東京学芸大学 修士課程終了
専門分野: 微生物学(土壌微生物学)
主な仕事:
1.光合成細菌の用途開発
2.デロビブリオを用いたクルマエビのビブリオ感染症防疫
趣味: コアトレーニング
略歴
1971年4月 ブリストル−万有研究所株式会社(1985年ブリスト
ル−マイヤーズ研究所株式会社に名称変更)
1986年6月 同社退社
1986年7月 学校法人小山学園
専門学校東京テクニカルカレッジ入社
2005年3月 専門学校東京テクニカルカレッジ退社
2005年4月 株式会社松本微生物研究所入社
2008年6月 現在に至る
資格・免許・学位
1992年3月 薬学博士 (明治薬科大学)