抗ガン遺伝子、MKRN1とは?

 

  MKRNとは、Rob Nicholisのグループにより発見され、当研究室との共同研究で系統的に命名された遺伝子です。 もともとZNF127という亜鉛フィンガータンパク質をコードするイントロンのない遺伝子の”ソース遺伝子”(原遺伝子)として、ヒト7番染色体長腕の7q34に2000年に同定され、8個のエキソンをもちます(NM_013446)。 MKRNはMakor(the source)+in=Makorinという造語の略号です。ところで、なぜMKRN1であるかというと、その後、Nicholisらがその命名の論文を執筆中にデータ-ベースサーチをしたところ、彼らの執筆中の論文(2000)よりも4年早く分子細胞生物学研究室により1996年に分離登録された、YGHL2というブリの遺伝子(D85881)と高い相同性を持つことに気づき、これが、ヒト7q34にあるMKRNの祖先と彼らは考えました。 ところがその後、7q34のものと同じエキソン構造を持つ、YGHL2と相同性がさらに高い遺伝子がヒト3番染色体の3p25にも存在することを見出しました(NM_014160)、それが、このブリの遺伝子、YGHL2に由来する可能性がでてきたため、我々に共同研究を申し込みました。 すなわち、ブリのYGHL2の発見は脊椎動物進化系統上生じたMKRNのオルソログの初めての発見だったわけです。 この共同研究の結果、脊椎動物の祖先のMKRNが進化過程で重複し(遺伝子の並びの祖先の形成と進化の図)魚類において2つのMKRNにわかれたことが明確に解明され、7q34にあるものをMKRN1、3p25にあるものをMKRN2とそれぞれ命名したわけです。 また、ゲノム構造が変化し、Zincfingerの一部が欠損した、MKRNがヒトの6p21にあり、MKRNP2という偽遺伝子考えられていましたが、これの祖先がトラフグのゲノムにも存在し、PPARDと並んで存在するため進化系統的に関連していることがわかり、新たなMKRN遺伝子としてMKRNBと命名しました。これらのMKRN遺伝子の重複に重要な役割を果たしたのが、脊椎動物が、ホヤの祖先から原始魚類として進化する過程で起こった2倍体ゲノム全体の2回にわたる重複(8倍体化)です(詳しくはここをクリックしてください)。 すなわち、脊椎動物以外では、MKRNは植物も含めて、一つしかないのが普通です。 それで、1も2もなくてただ”MKRN”と呼びます。このように、ブリのゲノム研究がMKRNファミリーの系統確立に重要な役割をはたしたのです。 

また、MKRNのRING (C3HC4) とCys-His (C2H2CH) は 天然痘ウイルス(small pox virus)の末端にコードされており、古い時代にホストのMKRNから分化したと考えられています。 天然痘ウイルスの病原性を担っており、おそらく、ウイルスによる細胞死やアポトーシスのような役割を持っている可能性があります (文献4)。  天然痘ウイルスとMKRN遺伝子の系統相関図

  このMKRNの機能としては、特定のタンパク質の分解に関わるユビキチンライゲースという酵素作用が候補として上がっていて、しかもRAF1やBRAF1というガンを起こす遺伝子に逆鎖で存在するなどからなんらかの抗ガン作用が疑われていたわけです。 このMKRN1について、韓国の研究グループが、テロメラーゼという細胞を不死化させる酵素の特異的分解を行うということを最近(2005年4月)確認したわけです。

 下図に抗ガン遺伝子MKRNファミリーと原ガン遺伝子RAFファミリーの系統と分類を示します。 図中で、*印は我々によってクローニングされ配列解析された遺伝子を示します。 三角はゲノムデータ-ベースを用いて解明したものです。

Origin and evolution of the genomic region encoding RAF1, MKRN2, PPARG, and SYN2 in human chromosome 3p25. Shunnosuke Abe, Shigeki Chiba, Neena Mishra, Yasutaka Minamino, Hiroko Nakasuji Masanori Doi and Todd A. Gray,  Marine Biotechnology, 2004, 6: S404-S412

マコーリンなんでも帳(リンクリスト

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1. T Gray, K Azama, A. Min, M Drumm, S. Abe, and Rob Nicholls.,  2001 Phylogenetic conservation of the MAKORIN2 gene, encoding a multiple zinc-finger-protein, antisense to the c-RAF proto-oncogene  Genomics, 77(3): 119-126  -- MKRN2(NM_014160)のNCBIソースシーケンス

2.Chhoun Chamnan,Shunnosuke Abe*, Masanori Doi, Shigeki Chiba and Todd A. Gray (2003).  The genomic organization of MKRN1, and expression profiles of MKRN1, MKRN2, and RAF1 in yellowtail fish (Seriola quinqueradiata).  Journal of Egyptian-German Society of Zoology 43C :57-75

3.RAFSYNPPAR、およびMKRN遺伝子ファミリーの相関的進化の解明とブリゲノム解析の果たした役割−阿部 俊之助、千葉 殖幹、土居 正宜、南埜 康隆、中筋 洋子、 Neena Mishra 日本農芸化学会中四国支部会 2004年1月24日

4. Robert D. Nicholis and Todd A. Gray (2004).  Cellular Source of the Poxviral N1R/p28 Gene Family.. Virus Genes 29:3: 359-364, 2004

 

 

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天然痘ウイルスとMKRN遺伝子の系統相関

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