遺伝子の水平移行についての考察 

さて、遺伝子DNAのHorizontal Transfer(水平移行)ということが、最近新たに問題になっています。 確かに遺伝子の水平移行はある可能性があります。問題は起こる頻度です。われわれは食品としてDNAをどのくらい食べているかというと数百mgから数グラムでしょう。 また、食する部分によって大きく異なり魚の白子などでは重量の1%以上はあるものと思います。 一方で肉類は0.1%以下でしょう。 植物質のものでは若芽などの増殖組織に多量のDNAがふくまれる(重量の0.1程度?)一方成長の停止した細胞でトマトやみかんの可食部のように水分の多いものでは0.01%以下でしょう。 ほうれん草などの若葉の緑色の濃い部分には葉緑体のDNAもかなり存在します。 

 遺伝子組換え食品反対論者の趣旨はそのような食品のDNAにより人などの細胞が形質転換されるというものです。 しかし、これらのゲノムDNAは総遺伝子数で数万から数十万個、塩基対にして数億から数十億塩基対ある一方で遺伝子組換えで導入する遺伝子は数にして数個、塩基対にしてせいぜい1−2万塩基対ぐらいです。 したがって遺伝子組換え体から転移する可能性のある遺伝子DNAの比率は特定の食物だけを摂取するとしても10万分の1以下となります。 すなわち、特別のことを考えない限り一般遺伝子のほうが10万倍以上、摂取形態を考えると一般食品のほうがもっと確率がたかいということになります。さらに遺伝子組換え食品の可食部は一般的にトウモロコシ、イネや大豆あるいはジャガイモなどの貯蔵組織、トマトの実といった死にゆく組織が大半を占めておりこれらの組織は成熟した状態では生命活動が低くDNAの含量は低いのです。 こういったことを考慮すると一般の遺伝子が1億回われわれに転移するあいだに、組換えた遺伝子の転移は1回おこるかどうかという低さになります。 したがって、一般の遺伝子の腸内水平移動をまず評価しなさいと言う結論が自然に導かれます。

  さらに、民族によって、個人によって食物もことなり、これらによっても水平移行するものが異なることになります。 このような食の多様性も含めどのように危険性を訴えるのかという点に関してあまりにも非定量的といわざるおえません。 この学者の言うことを信じるならば現実の危険性としては移民や食事内容の変更による水平移行の変動のほうがはるかに問題になるはずです。 日本人のように生の発酵食品を多く摂取する場合はこの微生物由来のDNAによる水平移行はより深刻な問題となっていいはずです。 しかも、今まで食したことのない生物がある日からスーパーに売られていることもよくあることなのです。 さらに、組換えのもととなる遺伝子の多くはすでに自然界に広く分布するものです。 これらが以前から水平移行の対象にならないと言い切れるのでしょうか。

  DNAの含量の多い食品はタラコや白子など魚類の卵(卵巣)や精巣です。 その他の動物でも同じですが魚類のものは特に大きくまた一般に広く食されています。 われわれは、これらをDNAの鉱石と呼んでいます。もし、遺伝子の水平移動が問題ならもうわれわれは魚になっているでしょう。日本人の特性はひょとするとこれらのDNAかも、特にウニ(ウニの卵巣)は日本人ぐらいしか食べない?

  もし、実験としてGMOで用いられる組込み遺伝子のみを抽出して純化し単独で大量に摂取させればひょっとするとそうなるかもしれません。 これと同様に非組換え体のイネか牛か乳酸菌のそれ自体がもっている特定の遺伝子を同様に大量に強制摂取させればやはり同様のことが起こるでしょう。 論者はこういうと可能性があるから危険だというのですが、ではどうして、一般の遺伝子にその可能性はないと言い切れるのですか。 したがって、この議論をすればするほどすべての食品のDNAの人や動物あるいはその他の生物への移行のテストをすべきであるという結論にならざるえないでしょう。 フグの白子をたべたらその人がフグ毒を蓄積し”フグ”になり自家中毒する危険性はそういった意味ではゼロではありません。  同様にほうれん草ばかり食べていたら皮膚が緑色になって飯を食わなくてもよくなるということもゼロではないわけです。  また、彼らは自然界で起こる遺伝子の変異や組換えやなどの数量についてはまったく触れていません。 そのなかで人為的水平移動がどのぐらい見積もられるのか。 ”すべては可能性”の論議を重要視するならすべての食品の生物学的安全審査を制度化しましょう。
 
   いずれにしても、GMOに対し十分に安全審査をすべきであることに大賛成ですがそのとき、いったい何のためか、そして位置付けを明確にする必要があり、同時に従来の非組換え品目についても中毒や健康障害が発生するまえに安全審査をしておくことも重要でありましょう。

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2000/12/31 16:14