有機農法は万能か

   ーヨーロッパと日本の食糧事情と気候風土の違いー有機農法への期待と限界の交錯、 ヨーロッパの遠大な戦略。

ー日本などにおいては無農薬・有機農法は周辺の通常農法によって成り立ち、かつ周辺の農薬使用量を増加させるー

 この命題を検討するに当たり重要なことがあります。 みなさん、日本の農業の物理的および生物学的基盤について真剣に考えたことがおありでしょうか。 このページにおいては日本の農業における有機農法の戦略的位置付けに関して、私の農業に関する見分と有機肥料に関する資源リサイクルの研究や実践活動からえたことを総合して考えてみます。

  ヨーロッパは環境保全のお手本であり、遺伝子組換え育種反対の急先鋒であることは皆さんご存知でしょう。 そしてそのうらに論理的結論としての自国での有機農法に対するかれらの自信があります。 それを受けて日本の遺伝子組換え反対論者が運動を展開しているという側面がありますが、このことについて日本と比べて少し検証してみましょう。 

  まず、ヨーロッパは域内において食糧がほぼ完全に自給できます。理由は国土の多くが耕作可能であることと人口がそれに比して少ないということです。 第二に、気候が乾燥、冷涼であるために病害虫が少なく、特に雑草の生育が弱いということです。 第三に、地質が溶脱をあまり受けていない風積を含む堆積土が多いということです。

  これらに比べると、日本は山岳国でしかも国土の60%以上が森林におおわれ耕地は10%にも満たないこと、人口が多いこと、および亜熱帯的気候の夏を有すること、火山灰や洪積台地はじめ養分の溶脱をうけた耕地が多いこと、世界有数の多雨地域と豪雪地域をもつことなどです。

  したがって、日本の場合は雑草ならびに樹木の生育が著しくほおっておくとたいていの地域はいわゆる照葉樹林になります。 農業的にいえば雑草と樹木との戦いであり、しかも多くの昆虫や動物が生息しこれらとの戦いも熾烈なものがあります。 さらに、多雨と火山性の地質のため肥料分およびその保持力に乏しく、施肥の必要性が高いことです。 日本の高温多湿がいかに雑草を巨大化しはびこらせるか、そのいい例はセイタカアワダチソウです。これは原産地の北米では30cmぐらいのかわいらしい野草ですが、それが日本にくると見るも憎たらしい草丈2mにも達する(西南暖地)巨大な密植性の雑草になるのですーー>生物のトピック参照 また安全の看板だとおもわれていた生物による人間の病気の媒介も無視できません=>ナメクジと住血吸虫病

  悪いことに、日本では農業の適地は大河川沿いの低地や河口のデルタ地帯などですがこれらの地域で有数なところは、たとえば大阪平野などですがご存知のようにこれらの地域はまた、工場と住宅の適地でもありすでに農業は壊滅状態です。 北海道の広大な大地があるじゃないかといわれるかもしれませんが、私が学生のころ当地に1ヶ月滞在し調査したところ、米国やヨーロッパの農地のような肥沃な堆積土ではなく、火山灰と泥炭を中心とした改質の困難な”ヤセ”地であることをしり。 さらに、長い積雪期間と湿気の多い冬による長期にわたる土壌凍結、夏場の北東の低温の風などヨーロッパや北米とは著しく質を異にする農業環境が一般的であることがわかったのです。 たとえば長期にわたる土壌凍結は放牧期間の短縮と配合資料の需要の多さを生み出し、夏場の低温のオホーツクからの風は堆肥の熟成や牧草の生育を邪魔するのです。私の米国中西部での2年以上の生活のなかで知ったことをあわせると北海道での農業は大変であることがわかります。

  北米では、中西部はロッキー山脈周辺の風化した岩石に由来する風積土(風で運ばれた土壌)が60mも堆積しかつ雨が少ない(年間600mm以下)ため養分が保持されており、水さえやれば収穫できると極言できるぐらいすばらしい土地なのです。 風で運ばれたということは石がなく傾斜が緩やかで機械化に適しているということなのです。 しかも、気温は低いが乾燥した冬と極度の低温化での強風による積雪の移動などにより積雪量が少なくかつ土壌凍結が顕著でないため、耕作や放牧可能期間が極めて長いのです。 12−2月ぐらいが放牧困難な期間です。 麦が雪に埋もれている時間はわずかです。 したがって、3月ー4月の気温の上昇と日照の増加により作物は急速に育つのです。 

  ヨーロッパでも土壌条件は日本に比べれば格段に良くまた、農地の改良が長期にわたって行われ,降水量が少ないなども手伝って改良効果は蓄積しその生産力は高いと言わざるおえません。 また、大陸の西側であることと暖流の影響で比較的冷涼で温和な気候のため病害虫ならびに雑草や樹木の生育が比較的少ないという農業的な好条件があります。したがって、ヨーロッパ流の無(減)農薬有機農法は日本では限定的にしか実践できないと考えられます。 

  一方で日本は不利な条件のなか、稲だけは除草をすればすくすく育つわけですがそれでも食糧自給率は40%程度と低迷していますし、畜産においては輸入飼料に頼らざる追えません。 以上のような要素を考え合わせると、有機農法はある程度の経済メリットを生み出すものの、あくまでも相対的でありすべてを現状の品種のまま無農薬、有機農法に切り替えることは食糧の減産をまねき、現在の食需要のもとでは食糧自給をいよいよ逼迫させる可能性があるのです。 日本では無農薬農法をおこなうと周辺の通常農法の農薬使用量が増加するなど、”迷惑”とみなされる場合もあります。 また、天敵による防除はその性格上害虫等をある程度のレベルで存在させなくてはなりません(ドングリのはなし参照)。

 外国から食糧を買うためには工業や商業を振興しなくてはならず、そのためには平野にある農地をうめて、あるいは浅い湾をうめて(漁業の衰退も重要)工場やビルをたてるというパラドックスを繰り返しているのが日本の現状なのです。 

  米国の組換え作物を拒否すればヨーロッパのペースにはまってしまい彼らの域内からの農作物を買わざるおえず、結局は彼らの食糧戦略にはまってしまうのです。 いままで米国だったのが今度はヨーロッパになるだけのこと、ヨーロッパのほうが思想的には面倒です(マグロや鯨、さらに移入生物の禁止や駆除の強制など)。

  さらに、地球温暖化が決定的になっている状況において近い将来、病害虫がさらに多発してくる可能性があり、薬剤使用レベルを適正に保てるのか、現在の作物でどこまでやれるかあるいは急速な環境変化に従来の育種がどこまでついてこれるのか、考えなければならない将来の問題は大変多いのです。

  日本にはもともと文化の輸入と容認の思想があります。 これは歴史をみればわかることで中国語やその文化自体ではなく漢字や都合のよいものだけを導入して利用したり、 また、多くの移入生物(作物)をそれなりに利用し自然改造しながらを培ってきたということを忘れてはならないでしょう。 たとえば広がる水田や杉やヒノキの林はもともとどんぐり類に象徴される樹林帯であったということです。 また、エンドウやキャベツをはじめ多くの作物は移入作物で、外から取り入れたものを上手に利用しています。 日本はしたがって新しいものを利用する文化こそあれ、新生物を拒否する文化的伝統はもともとはなかったということです。日本がこの道を踏み外したときたとえば第二次世界大戦のように災厄を生み出してきたといっても過言ではないと思います。

 したがって、日本としては、遺伝子組換え論議に関してヨーロッパにあおられてヒステリックにならずにヨーロッパと米国のいいぶんを冷静に理解分析し都合のよいところを取り入れて戦略的に独自の行動を模索することが大事なのではないでしょうか。 また、遺伝子組換え育種は有機農法と対立するものかというとそうではありません。 では、なぜ対立しているかのように見えるのでしょうか。それは、思想や政治レベルで戦術的に遺伝子組換えに反対しているからにほかなりません。 たとえば当研究室で模索している遺伝子組換え育種の戦略のなかに肥料効率の高い作物や環境に強い作物や生物の育種があります。これらは、恣意的ではない自然分類における有機農法において重要な貢献が期待できるものなのです。 有機農法とは本来栽培や飼育方法での農法の分類なのです。 

 

 

もどる  育種ホーム ライフサイエンスホーム  .図書館ホーム  研究室ホーム

ヒット カウンタ 20000118