従来育種(伝統的育種)の絶対化(神格化)と遺伝子組換えとの奇妙な逆転

  よく、遺伝子組換えではなにが起こるかわからないという議論をよく耳にします。 では、伝統的育種ではおこることが明確にできるのかーこれはまったく転倒した議論です。 また伝統的育種は絶対的”善”なのでしょうか。歴史が古ければ常に正しいのでしょうか。遺伝子組換えでは非現実的なことも含めて多くのことが詳しくわかるので、議論していくうちに情報が乏しい従来育種のほうが安全だという倒錯が起こったものと考えられます(地雷のある道参照)。

  トウモロコシではタンパク質栄養を考えるとリシンという必須アミノ酸のひとつの含量が少なく栄養的価値を落としています。そこで、いろんなトウモロコシの株をしらべてこのリシン含量の高いものを伝統的手法で選抜し育種し市場に出しました。ところが、10年以上もたった現在でも”なぜリシン含量が高いのか”という極めて重要な理由がわかっていませんしーこれは当研究室の研究テーマにもなっていますー問題にしなくてよいという理由もはっきりしません。 大豆において特定の貯蔵タンパク質の変異による抑圧によりメチオニンという必須アミノ酸の含量の高い育種が伝統的手法で行われましたが、主要成分から予想されるような結果に必ずしもならないということがわかっていますーこれも当研究室での課題です。 まして、その貯蔵タンパク質の変異がなぜ起こったかはまったく究明されませんー従来育種においては遺伝子の欠失あるいは変異と片付けられます。 そして、それらの遺伝形質がなぜ生じたか、どこからきたのかなんて気にしません。 しかしながら、遺伝子組換え食品の安全性の議論に参加し高い問題認識をもつ皆さんは、このような原因不明で改質された従来育種による製品をどう思われるでしょう。 アレルギー性物質は、未知の有毒物は、環境への影響は等々。。。安全性を明らかにしてほしいと思いませんか。

  従来の育種とは、交配育種で有るかどうかが重要なのではありません。この点も重要です。従来の育種は主に”形質”と”変異”というきわめてブロードな、原因を特定しなくてもよい”視覚的な”そして”あいまい”な物質的基礎をもたない概念と手法で行われます。 しかも、必要な遺伝形質が天然に見つからないときは、放射線や突然変異誘起薬剤などで処理して突然変異を誘導するのです。これらの方法はゲノム部分全体に影響を与えるのです。みなさんはそういうことをご存知でしょうか。 ”同質性”の判定にしても、予期した性質以外の性質も変化していることも多いのです。 一度、伝統的育種による新品種の詳しい説明を見られてください。一方、遺伝子組換えは、”遺伝子DNA”と”遺伝子産物とその機能”という明確な物質的根拠と手法でのもとで行われ、しかも、導入遺伝子は極めて限定的です。 

 従って、結果のみを問題にし未知の問題を含め何が起こっているか必ずしもわからなくてもいいし複数の形質が変化してもいいのが従来の育種の特徴であり、これに対照的に、結果にいたる過程が逐一分子的に分析され明確にされるのが遺伝子組換え育種の特徴なのです。

そこで次のようなたとえは如何でしょうか。

地雷の埋まっている道  

   まず皆さんは5感以外に地雷を検知する方法をもたず、また他に適当な方法の知識やリーダーなどから以外の情報がないと仮定してください。 そこで、あるところに地雷が埋まっている道が一本あるとします。 

  ケース1 ある”専門家が調査し詳しい情報を出さずにとにかく”安全宣言”し”安全”という標識を立てたとします。しかも、今まで安全な場所に作られているので大丈夫とコメントしたとします。 

  ケース2 一方、別の専門家がこの道のどこに地雷が埋まっていて危険か、どこをとおれば安全かを皆さんの知らない最新の方法で調べて表示し、しかも”危険”という標識を立てたとします。さらに、調べた技術の限りを尽くしてもひょっとすると見つからなかったものもあるかもしれないとコメントしたとします。 

  皆さんの反応は? 皆さんは”安全”という標識が立っている場合を安全と思うでしょう。”危険がない”ということとその裏である”安全である”というのは実は、本来完全には証明できない不可知論なのです。 これを従来育種と遺伝子組換え育種に当てはめてみてください。

 

まとめ:  世論を聞いているとその多くはまるで伝統的育種を絶対的善として神格化した上で、そこから人のなせる技として遺伝子組換え育種を論じているようです。 しかしながら、どちらも人のなせる技であり、考えれば考えるほど従来育種にも遺伝子組換え育種と同等以上の厳しい安全審査が必要になってくると結論せざるおえないのです。

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