食の安全の”常識”を検証する −総合的安全性の重要性−

 

応用生命化学  阿部俊之助

 

 一般的には、”危険な”化学物質は、PCBや農薬などの人工のものだと信じられており、それらの含有量が食の安全の重要な要素だと信じられてきた。しかしながら、例えば、農薬の使用量の伸びと平均寿命の延びはマイナスの相関とは言い難く、農薬の使用がないことだけが真の安全性を計るバロメータ−であるといえるだろうか。

 実は、植物には自身が合成する1万種類以上のさまざまな化学物質が含まれている。それらのなかには人間が摂取すると中毒をおこし場合によれば死に至るもの、ガンやアレルギーを起こすものも多いが、植物にとっては自己を守る役割をしていることも多い。すなわち、安全な農作物とは植物が自然界での生存競争に勝つために本来持っている植物毒を取り除いたものであることは重要である。 例えば、野性のジャガイモ初め野性のナス科植物は動物による食害を妨げる毒素を持つ猛毒植物が多いが、食用のジャガイモやナスの仲間はその毒が生産されないか限定的にしか存在しない品種を食用として栽培している。サチル酸やその類似化合物は有毒であるということで食品添加物としては一切認められていないが、植物が生産する殺菌性防御物質でもあり、農作物を含めた植物一般に広く存在する。広い意味での農薬を使用せずに毒性の低い作物を健全に栽培することは困難である。雑草は有毒なあるいはアレルギー性の強いことが多いし蜂蜜に含まれる有毒植物由来の毒蜜成分のコンタミによる中毒の危険性もある。新品種を作る通常の育種においても例外ではない。例えば、登熟の早い穀類の品種によってはアレルギー性タンパク質が増加しているものがある。ナタネ油は有毒物を含有するが、そのレベルが低い品種ができるまで米国では長い間食用として認められなかった。放牧では、牧場に生える有毒植物による発ガンリスクがあるし、自然牧場と称して、山間部に移動すれば、こんとは我々の飲料水を汚染する。自然は人間にとって必ずしも優しいとは限らない。

 次に重要なのが病原菌に感染することにより生産される毒素である。防除が不完全だとトウモロコシにはズイムシが入りやすいが、その虫害を受けた部分にカビが感染し黒変しているのをよく見かける。このカビはアフラトキシンという地上最強の発ガン物質を生産しそれを摂取した動物に肝臓ガンなどを引き起こすだけでなく、摂取動物の分泌物、すなわちミルクなどに移行しそれを飲む人間にガンの脅威を与え、その危険レベルは1ppb以下であるといわれ、ダイオキシンよりも強力である。カタツムリやナメクジのはいあとから媒介される線虫病も恐ろしい。

 このようなことから、農作物の栽培において何らかの保護・管理を人間が与える必要があるのは明白であり、その一つが農薬の使用である。法律上の農薬の危険性については皆さんはよくご存知だが、一方、有機農法に用いられる農薬(法律上の農薬ではない)の中には、安全だと思われているが実は安全審査をとおらないような危険な物質を含むものがある。その代表例が木炭製造時などにできる木酢であり、毒・劇物あるいは下水道に放流してはいけない化学物質を多種類含む。耐病性の農作物は、時に有害な毒素を生産する場合もあり、農薬を広い意味でとらえ、適切な使用により安全性を確保することは重要である。食品表示においても、天然・人工を問わず実際に含まれる可能性のあるすべての有毒植物・成分についての試験成績を閲覧ないし表示すべきであるが、残念ながら現状はそれと程遠い。

 人間は、昆虫など他の動物とは異なり、食が遺伝的に(本能によって)決まっておらず、味覚、嗅覚、視覚など食味・食感の分析器官でしかない生物学的欠陥がある。このため人間は、昆虫のように安全な食物を本能では選べない一方で、強い肝臓と相まって多くのものを食することができるという他の生物にないメリットを持っているが、中毒とは常に背中合わせの状態にある。それをカバーするのが、学習とか文化とか分析という人類特有の知恵であり、食用できる生物種や部分・時期などを細かに分類し指定する。また調理と称する物理・化学的解毒方法の果たす役割も大きい。野菜の亜硝酸とスルメなど干物のトリメチルアミンが胃ガンの原因であるとか、水源地域での畜産が飲料水の硝酸汚染を引き起こすというような化学分析により明らかになったリスクも多い。”自然”に潜むリスクを同等に認識することは重要である。 トマトですら、有毒植物のリストに挙げられているほどであるし、ジャガイモは低温(10度C以下)で光を照射して保存すると緑化し、かつソラニンという猛毒を蓄積する。栽培環境に適した品種の選定、適切な肥培管理、季節的要因、罹病や傷害の程度、食用部位、調理法、保存法、食する量などに充分な注意を払うことは、我々の健康な生存にとって不可欠であり、トレーサビリティは、本来、こういった内容を重点におくべきである。

 

 本講演においては、食品の真の安全性に関わる因子を広く分析するとともに、食のリスクの考え方を論じ、かつ化学の知識がいかに人間の食の安全の確保に重要であるかを実例をもって解説する。

 

食品のリスクの交換性と付加性

リスク交換とリスク付加

 

たとえば、ご飯(A)とパン(B)があってそれだけだとリスクはABの選択になる。 ご飯とパンを半分づつ食べるとABのリスクの平均となる。 それにふりかけCをかければ、このリスク(C)が加わる。 デザートは別腹なのでリスクは付加される

 

 

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