遺伝子組み替え作物がアフリカを救う?                     

遺伝子組み替え(GM)農作物が、アフリカを飢餓と貧困から救うかもしれない。 

絵空事のように聞こえるが、その可能性を信じる科学者がいる。先進諸国のバイオテクノロジーを導入して、アフリカの農業に革命を起こそうというのだ。 自身も飢餓と貧困の中で育った植物遺伝学者フローレンス・ワムブグが自説を展開する。

 

 この記事は英ニューサイエンティスト誌5月27日号に掲載された『Feeding Africa』を翻訳・転載したものです。 このほかの同誌転載記事等のバックナンバーはこちらでご覧いただけます。

 

遺伝子組み替え(GM)食品は、欧米人にとっては安全性に疑問のある高コスト食品かもしれないが、途上国の人々には飢餓からの脱出を意味する。 アフリカを代表する植物遺伝学者フローレンス・ワムグムはそう語る。 モンサントの御用学者の言いそうなセリフだが、ワムグムは「アグリビジネスの手先」ではない。 ケニアの貧しい農民の娘として育った彼女は、自分の母親のような境遇の人々を救おうと農学研究の道に進んだ。「飢餓に苦しむ人々の存在は、私にとってきわめて現実的な問題なのです。」と、彼女は訴える。 

 

GMがアフリカの貧困を根絶する 

 

NS:遺伝子組み替え(GM)食品反対派は、あなたをモンサントの手先のように言っていますが?

 

 私はモンサントではなく、GM技術のために奮闘しているんです。 過去20年間、この技術の開発にすべてをささげてきました。 同胞に役立つ技術だと信じています。 だから、この技術が信頼されるよう闘っているんです。

 

NS:北の豊かな国々と巨大な多国籍企業が支配する、外来の高コストの技術が、貧しい人々の役に立つでしょうか。

 

GMは「緑の革命」など従来の技術よりもアフリカに役立つでしょう。 たしかに緑の革命は、欧米から持ち込まれた外来の技術だったためにアフリカでは失敗しました。 肥料の使用など、農民を教育しなければならなかったからです。 でも、GM作物の場合、たとえば害虫管理の技術は種子に組み込まれています。 またGMによって収穫高も増えます。

 

今のアフリカではトウモロコシの収穫高は1ヘクタール当り1.7トンですが、世界の平均では4トンです。 殺虫力のあるバクテリアの遺伝子、Bt遺伝子を組み込めば、その差の20%を挽回できます。 GMですべて解決できるわけではあるません。 でも穀物生産量が何百トンも増えるのは確かです。

NS:GMはヨーロッパの一部で言われているような高コストの贅沢な技術ではないと?

 

アフリカではGMがまさに貧困を根絶すると思います。 ヨーロッパでは除草剤耐性のGM作物が槍玉に上がっていますが、アフリカでは草取りは女の仕事です。 アフリカ女性の労働力の50%は草取りに向けられている。 それを省力化できれば、社会的影響はとても大きいでしょう。

 

途上国では意欲的な技術導入で、食品の価格がどんどん下がっていますが、熱帯アフリカではすべて手作業ですから、価格は上がる一方です。 低所得者は稼ぎのほとんどを食費に当てている始末、農業生産性をあげることが出来たら、食品の価格が下がり、投資に回せる余剰資金が生じて、経済全体がうまく回っていくはずです。

 

NS:農業生産性をあげるには、肥料や灌漑施設が必要ですね。 GMに投資すれば、そうした基本的なニーズに向けるべき資金がますます不足しませんか。

 

そういうふうに言うのは、「アフリカには飛行機はいらない。道があれば十分だ」と言うようなものです。アフリカにはコンピューターはいらない。まずタイプライターを覚えろ」とかね。私たちも地球村の一員です。もちろん、既存の技術がなぜアフリカでうまくいかなかったのか検証する必要はあります。要はいろいろな選択肢の中から一番アフリカに合ったものを選ぶこと。何を選ぶかはアフリカが決めます。

 

NS:GMはまだ十分に試されていない技術です。どんなリスクがあるか予測がつかない。ヨーロッパが慎重になるのは当然だと思いませんか?

 

ヨーロッパは盛んに「危ない」と言っています。「これはおまえたちの手には余る。アフリカよ、GMには手を出すな」とね。彼らが自分たちの考えをもつのは結構。でも他人にそれを押しつけるのは、それこそ危険です。 

 

    知的所有権はアフリカ側に

 

 NS:あなたは農業従事者ではありませんね。大都市にすむ科学者に、貧しい農民のニーズがわかるでしょうか。

 

 私の母は貧しい農民でした。母の姿を見て、農業技術を研究しようと思ったのです。母は小さな畑でいろいろな作物を育てていました。それが私たち一家の収入源でしたし、食料源でもありました。でも、いつも十分な収穫があるとは限りません。私は飢えを身をもって知っています。母はいろいろ工夫して収穫高を増やそうとしていました。良い種子を選んだり。農薬は買えませんでしたが、害虫退治に灰を使ったりしていました。そうやって私ときょうだいを学校にやるお金を稼いだのです。でも、その苦労は並大抵ではありませんでした。

 

 自分のルーツである農村部に帰って、学んだことを役立てたいとずっと思っていました。私は、いろいろな国で教育を受けました。イギリスで博士号を取得し、さらにアメリカの大学で研究を続け、民間部門で働きました。でも、故郷の村を忘れたことはありません。それで帰国することにしたんです。

 

 今ケニアでは・・・中でもトゥルカナ地方では、多くの人々が飢死しています。国際会議に出席するのに忙しく、そうした問題はテレビで見るだけといった学者にはなりたくない。人々と共にいたいんです。飢餓に苦しむ人々の存在は、私にとってきわめて現実的な問題なのです。

 

 NS:サツマイモにつくウイルスを研究対象にしたのは?

 

 サツマイモは主要な常食です。ほかに食べ物がないときでも、裏庭には必ずサツマイモがある。母も作っていました。ところが熱帯ではサツマイモの収穫高はとても少ない。中国の3分の1です。おもにウイルスのせいです。

 

 私はイギリスのバス大学でこの研究し、ケニアでは母のような農民たちとフィールドワークをしました。この国民的な問題を何とか解決したかった。従来の品種改良では増産はほとんど期待できません。ウイルスに対する耐性を持たせる必要があることは明らかで、それができるのはバイオテクノロジーでした。

 

 NS:そこにモンサントが絡んできた経緯を話していただけますか。

 

 モンサントはウイルスを撃退する技術を持っており、アフリカの根菜か塊茎作物でそれを試してみたいと考えていました。人材を育て、知的所有権をアフリカに寄付したいと、私にアプローチしてきたんです。

 

 私はケニアで普及しているサツマイモ7品種を持って、モンサントに研修に行きました。すべて一から学ばねばなりませんでした。遺伝子導入の技術を習得するだけで3年ほどかかりました。

 

 それからケニアの畑から分離したウイルスをモンサントに送り、モンサントの温室でテストしてもらいました。ケニアで圃場試験を行う段階にこぎつけるまでに10年かかりました。

 

 NS:モンサントが知的所有権を寄付するのは立派ですが、ほかの企業はそれほど寛大ではないかもしれませんね?

 

 バイオ企業がアフリカにやって来て、アフリカの栽培品種に遺伝子を組み込むなら、知的所有権は彼らと私たちで共有すべきです。ケニア側も利益を得なければ。バイオ企業がアフリカの生物資源を奪って、アフリカに売りつけるなどということを許してはなりません。だからこそ、対等な立場でプロジェクトに参加しなければ。物乞いとしてではなく、ビジネスパートナーとして交渉のテーブルに就くべきです。

 

 「あなたが遺伝子を持っている。私たちは(それを組み込むべき)細胞を持っており、畑のことやここで猛威をふるう病害虫をよく知っている。だから協力してやりましょう」―――そう言えばいい。被害者意識にとらわれていたら、負け犬になるだけです。

 

 ケニア農業研究所がアフリカを代表してGM技術開発のための研究機関を設立中です。GMサツマイモは今やケニアのものであり、モンサントにとってはPR意外に何も商業的価値はありません。サツマイモに続いて、GMキャッサバを開発する予定ですが、その研究も公的な性格なものなので、やはり何の問題もありません。

 

 NS:つまりGM作物は、言われているほど高コストなものにはならないということですか?

 

 そうです。私は組織培養のバナナも手掛けていますが、バナナも従来の品種改良ではだめだったものが、バイオテクノロジーによって収穫高が上がりました。農民は高い苗を買っても、十分元がとれることに気づいたんです。

 

 組織培養のバナナ苗は100ケニア・シリングで、従来の苗の2倍です。そんな高い苗は農民には買えないと言われましたが、それは偏見です。施しをしてやるという意識があるから、そう思うんです。儲かるとわかれば、農民だって投資します。

 

 まず確 を持ってもらわねば。そのためにサンプルを見せて、管理の仕方を教えました。いかに生育がよく、均一で、病気にやられていないか、自分たちの目で確かめてもらったんです。新しいバナナの苗は飛ぶように売れました。農民は納得すれば、自腹を切ってやる気になります。

 

 ある女性は一日にバナナを48房売って、約600USドル稼ぎました。それまではよくて5房で、稼ぎもわずかでした。彼女は念願だった台所の増築をしました。いまや50人の女性メンバーを指揮するコンサルタントです。私たちは農民に小額の融資を行っています。それによって収穫高が増え、自家消費分も市場に出荷する分も増える。それを実感させて、バイオ技術を理解してもらう。私たちはそうやってアフリカを変革しようとしているんです。

 

    ヨーロッパの世論は洗脳されている・・・

 

NS:GMがそれほど効果的なら、なぜ多くの援助機関が・・・さらには政府すらも、食糧問題を解決するにはまず不公正な分配システムを是正すべきだと主張するのでしょうか。

 

 名前は挙げませんが、一部の援助機関のスタッフは、ヨーロッパの本部から反GMの立場をとるように圧力を受けています。彼らはいわば洗脳されているんです。彼らにはこう話しています。「私たちは世界のトップクラスの科学者ではないし、リスクがあるのも承知の上だ。でも、管理していける。GMサツマイモを導入したら、ちゃんとモニターする。ただ種を持ってきて、あとは知らん顔じゃない」と。そう言えば、彼らはわかってくれますが、ヨーロッパの上司には逆らえないんです。

 

 NSナイロビに本部を置く大規模な農業研究所「国際昆虫生理学・生態学研究所」のハンス・ヘリン所長をはじめ、著名な科学者もGMに批判ですが?

 

 ハンスの見解はまさにヨーロッパ側のものです。彼はGMそのものに反対しているわけではなく、安全性が十分確認されていないことが問題だと言う。でも、すでに10年もテストを重ねてきたんです、これ以上何を知る必要があるのでしょう。前に進んでもよいのは明らかです。圃場試験を禁止していたら、試しようがないでしょう。

 

 私が懸念しているのは、ヨーロッパから指図されるという状況です。ヨーロッパには余剰の食料がある。GM作物を導入しなくてもやっていける。誰も飢えていませんから。でも、ここには飢えた人々がいて、切実なニーズがあるんです。

 

 NS:途上国の科学者の中には、ヨーロッパがGMに反対するのは、貧しい国々に先端技術をあたえたくないからだと見る向きもありますが?

 

 反GMで利益を得るのは、反バイオテクノロジーの圧力団体だけです。グリンピースは1億ドル規模の巨大企業なんです。それだけの予算を確保するには、何かしなければならない。それも首尾よく・・・。ヨーロッパの人々は、この技術の危険性ばかり吹き込まれ、世論操作によって反GMにさせられているんです。

 

 NS:環境保護派の圧力団体がアフリカの国々にも影響を及ぼすと?

 

 それはないでしょう。アメリカからどっとGM作物が入ってくるといったことはありませんから、ワンステップずつ進むでしょう。GMサツマイモを導入しながら、アフリカの人々がその是非を冷静に議論する時間は十分にあります。

 

 NS:ヨーロッパでは長期の厳密な圃場試験を経て、環境や健康に及ぼす影響が確認されなければ、GM作物の導入はありえないと思われますが、アフリカでもきちんと規制する体制ができていますか。

 

 規制に関しては、まったく妥協していません。規制システムをつくるために、多額の援助を受けています。そのために信じがたいほどの多くの会議が開かれました。私たちは政府にGMサツマイモの圃場試験の認可を申請しましたが、これが初のケースです。すでに規制システムはできていたけれど、実際に認可申請したのは、私たちが最初だったというわけです。

 

 認可が下りるまでに2年かかりました。今年中に圃場試験を開始する予定です。GMサツマイモ導入に向けた作業プロセスデ、圧力団体の息がかかっていない、人々に信頼される規制システムができたんです。狂牛病はアフリカには入っていませんからね。それを見ても、アフリカの規制システムの室がわかるというものです。

 

 (注)フローレンス・ワムブグは、国際農業バイオテクノロジー出願取得サービス(ISAAA)アフリカ地域支局長を務めている。

 

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