ブリ(魚類)のシナプシン2B遺伝子の転写産物の3’UTR上に残るシナプシンaのHとEドメインをコードする偽エキソンと偽イントロン

 

この下の図のように、ヒトにおいては一つのシナプシン2遺伝子が、C末端が異なる2つのペプチド、シナプシン2aとシナプシン2bを作りわけます。転写がシナプシン2aのC末端側にあるHおよびEドメインをコードする最終エキソンで転写が終了すると、正常にスプライシングされ、生じたmRNAはN末端側のGドメインに続いてHおよびEドメインのアミノ酸配列が生じ、シナプシン2aのペプチドができます。一方、Gドメインをコードするエキソンに続くイントロンにおいて選択的ポリアデニル化により、転写が終了すると、GドメインとHドメインがスプライシングできなくなり、Gドメインをコードするエキソンの3’末端から読み枠がそのままイントロン中に入り込み、Iドメインと呼ばれる短いアミノ酸配列を生じてコード領域を終了することにより、シナプシン2bができます。魚類のうちでは、サケがこのしくみにより2つのシナプシン2を作り出しますが、トラフグとブリでは、シナプシン2aとシナプシン2bが別々の遺伝子、SYN2ASYN2Bによってコードされます。 

  ところが、ブリ(Yellowtail)のSYN2B遺伝子の転写産物(mRNA)の3’UTRを注意深く調べてみると、シナプシン2bの読み枠の終了したあとに完全なHドメインとEドメインをコードする領域がイントロンをはさんであらわれてきます。なぜこのようにスプライシングされないゲノム領域が現れるのか調べるために、下図のように詳細にヒトのSYN2遺伝子のゲノム配列と比較してみましょう。遺伝子の転写においては転写開始部位から終了部位まで、すべての塩基が忠実にmRNAに転写されます。イントロンはGTではじまりAGで終わるので、そのイントロンは転写後に切り取られて(GT-AGルール)、エキソン同士が結合して成熟mRNAとなりリボソームにより翻訳されてコードされるペプチドを生じます。下図のように、ヒトのSYN2遺伝子配列においてはG、H、およびEドメインの間のイントロンが、確かにGTではじまりAGで終わっています。 この場合は、mRNA上にはGとHおよびHとEドメイン間の2つのイントロンが正常にスプライシングされてmRNA上から削除されることがわかります。 ところが、ブリの場合は、これらのイントロンのはじまりはGTですが、終わりがAT(Hドメインの前)またはTG(Eドメインの前)となっており、正常にスプライシングされないことがわかります。 また、本来ならばこれら2つのイントロンのサイズをあわせると6000塩基ほどあり、mRNAの3’UTRに収まるようなサイズではないはずですが、ブリの場合は1000塩基ほどに縮小しmRNAの3’UTRに存在できるほどにコンパクトになっています。これらの理由により、SYN2Bの成熟mRNAにHドメインとEドメインをコードするエキソン領域が残ったわけです。 また、ブリにおいては、かつて、この遺伝子がシナプシンbだけでなくシナプシンaも作っていたが、比較的最近になってシナプシンbだけしか作らなくなったと考えられます。 しかし、進化上まだ完全には淘汰されておらずSYN2B遺伝子にシナプシン2aのエキソンとイントロンの化石的配列が残っているというわけです。 

Fig02 SYN-RAFs.gif (36853 バイト)

同じ魚類でもサケになりますと、SYN2はヒトと同じ構造をもっていますので、魚類の進化の過程でサケ型(ヒト型)のSYN2が変化してブリとトラフグのSYN2になったと考えられます。 すなわち、SYN2遺伝子の構造進化上、サケ、ブリ、トラフグという順に系統的な変化が見られるので、サケの祖先からブリ(アジ科)の祖先を経由してトラフグになった可能性があります。 トラフグにおいては、このタンパク質を作る働きをうしなった不用な偽エキソンや偽イントロンが進化の過程で完全に消滅して、SYN2Bになったと考えられるわけです。  下図にその模式図を示します。

Fig02P SYN2-comp03x.gif (13407 バイト)

Marine Biotechnology 2003   Abe et al

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