電気的細胞融合のメカニズムの研究
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電気刺激による植物プロトプラストの細胞融合は、1979年に本研究室の阿部を含む日本のグループにより最初に報告された(1)。このパイオニア的研究はのちに他の研究者により”Mile Stone,道標”として位置づけられている (Van Wert, S. L. and Saunders, J. Electrofusion and electroporation of plants. Plant Physiol. (1992) 99, 365-367 )。この融合法は阿部らの植物プロトプラストの細胞膜の電気生理学的研究の過程で発見されたものである(2、3、4)。 このオリジナル法は先端直径が1ミクロン以下の微小電極を2個の隣接したプロトプラストに接触させ電気パルス通電を行い細胞融合を誘導するものである。この電気的細胞融合において、Caイオンと細胞膜の構造の役割が必要であることを指摘している(通電刺入法)。

 

世界で最初の電気的細胞融合の報告にあるプロトプラストの融合過程の写真(Plant Cell Physiology 1979)

その2年後、西ドイツのU.Zimmermanらにより、プロトプラストと直接接触しない平行電極を用い交流電界によりプロトプラストを誘電電気泳動させてじゅず状に整列させたのち電気パルスにより融合させる効率的な方法を開発した。この方法は増殖性の低い抗体産生リンパ細胞と増殖性の高いミエローマ細胞とを融合させて増殖性の高い抗体産生細胞(ハイブリドーマ)の作出に応用されている。Zimmermanらは電気的細胞融合過程において、細胞膜の電気的性質のみがかかわっていると主張し、Caイオンや細胞の生化学的あるいは細胞生物学的性質の寄与を否定している。

次に示したのはこの平行電極法による大麦葉肉プロトプラストの電気融合過程の写真である。

  

その後、阿部が愛媛大学に赴任してから、この西ドイツのグループの細胞融合機構のモデルに反論を始め、計4報の論文により融合過程はCaイオンを必要としかつ3つ過程からなることを明らかにした(5)。まず、プロトプラストの細胞膜はCaイオンに対する感受性が高まっており、電気パルスによる細胞膜の穿孔過程や膜電位がCa依存性であり(4)、また、表面電荷や誘電電気泳動の効果は融合過程と分離できることが明かとなり、彼らが主張していた誘電電気泳動や表面電荷の電気的融合過程そのものへの直接的な関与は否定され(6)、融合細胞の球形化過程においては細胞骨格の再編成やこれにかかわるCaイオンの役割など分子細胞生物学的過程が重要であることを示した(7)。

   以上の一連の研究では、 多価カチオン特にヘキサミンコバルト(V)は低濃で電気パルスによる細胞の破壊を緩和するとともに電気的細胞融合の球形化過程を著しく促進するが、誘電電気泳動を低下させそれに見合った分融合率が下がる。従って、電気的融合誘導自体は阻害しないしヘキサミンコバルトは融合の閾値を下げる。また、細胞をこれらのイオンで処理した後、取り除くとこれらの効果は消滅する。ところが、ランタンイオン(La3+)は前出の多価カチオンと異なり、電気的細胞融合の誘導を強く阻害する一方でわずかに生じた融合細胞の球形化を著しく促進するという2面性を現わす。そして、この強い融合誘導阻害効果のほうは処理後ランタンイオンを除いてもまったく回復しない。しかし、表面電荷密度と誘電電気泳動は元の値に回復するし、球形化促進効果も消滅する。しかも、細胞表面にランタンイオンが結合して残留することがICP分析で示されている。NaClなどを加えて表面電荷密度をさげ、また誘電電気泳動を阻害しても、プロトプラストの接触頻度の減少に見合った分だけ細胞融合率が減少するので電気的細胞融合の誘導が阻害されたとはいえないし、これらの効果は可逆的である。これらのイオン種による表面電荷密度、誘電電気泳動の強さなどへの効果と融合誘導の阻害の分析から、表面電荷密度と電気的細胞融合の誘導には直接の関係はないと結論できる。

  一方、プロトプラストのサイトカラシンD処理は細胞表面の電荷や誘電電気泳動に全く影響しないが、電気刺激によるプロトプラストの破壊を減少させ、また融合後の球形化を著しく促進する。 この効果は、サイトカラシンは電荷への影響は皆無であることを除けば、カルシウム、ヘキサミンコバルトやランタンなどの多価イオンの球形化促進効果と酷似している。また、電気刺激によるプロトプラストの融合過程は、融合誘導と融合の拡大(球形化)の過程に明りょうに別れる。しかも、このサイトカラシンの効果が現れるのに30分程度かかるし、この薬剤を洗い流してもしばらく効果が残留する。しかも、サイトカラシンの効果はCaイオンの共存で増幅される。ファロイジンは電気的細胞融合においてサイトカラシンの逆の効果を現わす。 以上のことなどから電気的細胞融合の融合拡大にはカルシウムイオンと細胞骨格の解離、再編成が不可欠であることが結論された。

 

 

1. Senda, M., J. Takeda, S. Abe and T. Nakamura.

Induction of cell fusion of plant protoplasts by electrical stimulation. Plant Cell Physiology 20: 1441-1443 (1979).

2. Abe, S., J. Takeda, and M. Senda.

3. Abe, S. 

4. Abe, S. and J. Takeda.

5. Abe, S. amd J. Takeda.

6. Abe, S. and J. Takeda.

7. Abe, S. and J. Takeda.


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