細胞質構造と機能のシミュレーションと人工細胞質を用いた物質生産の試み


生物の細胞は動植物を問わず、生物の生存温度において通常の化学反応では達成できないような早い速度でしかも極めて効率的にタンパク質を始め多くの物質を作り出している。特に、タンパク質合成においては何十段階もの多くの反応ステップを速やかにかつ正確に行っている。大きさが0・025ミクロンほどのリボソームと呼ばれる粒子がこの中心的な働きをになっており、細胞内において、約30秒ほどで、常温において350個程のアミノ酸を遺伝子コードに従って、99%以上の正確さでペプチド結合させる能力を持つ。しかも、1000個以上のアミノ酸を同様にしてつなげることもできる。

遺伝子ーmRNAーリボソームータンパク質の流れ図

ところが、この反応を試験管中に取りだしたリボソームを含む細胞成分を用いて行うと数分以上かかる。さらに人間が製作したペプチド合成機で行うと何時間もかかるうえに数十個のアミノ酸をつなげるのが限界である。

 この生物の細胞が持つ効率の高さは、タンパク質合成にかかわる種々のステップに必要な因子が溶液中にバラバラに存在するのではなく、あるまとまりや連携を持って細胞質空間に有機的に立体配置されているためと考えている。この立体配置を司るのが、細胞骨格などの細胞内ネットワークである。

細胞骨格、リボソーム等の細胞内ネットワークのイメージ図

そこで、この細胞質の分子構造をシミュレーションすることによって温和な条件下での効率的な物質生産の基盤が明らかになるし、人工細胞質を構築し有用タンパク質やその他の物質を合成するなどに応用できる。人工生命の作出なども可能になるかも知れない。

 植物の光合成も細胞質中ではきわめて高い活性を持続的に持つ。このような光合成を行う人工細胞質ができれば、食料や工業原料生産や地球温暖化にかかわる炭酸ガスを排出源において効率的に除去する技術などに応用できるであろう。

 本研究室においてもっとも野心的で未来思考のテーマのひとつである。我こそはと思う諸君の参画を歓迎する。


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