魚類成長ホルモンの組換え遺伝子手法による生産と栽培漁業における利用


成長ホルモン(GH)は脊椎動物の脳下垂体から分泌される約22000Da位のペプチドホルモンの1種で、骨を中心に脳以外の全組織と全器官の強い成長を促進する効果が知られている。成長ホルモンは動物種によって構成アミノ酸の種類が少しずつ異なり、種特異性が高い。また成長ホルモンは脳下垂体内の分泌組織内において顆粒として存在していることが免疫化学的染色法により確認されている。家畜や魚に注射した場合、成長促進効果があることが認められている。また、成長ホルモンはヒトの成長ホルモン欠乏症の治療薬として使用されてきた。

従来のGHの単離方法では1gのハマチの脳下垂体から0.3mg程度しか抽出できなかったが、本研究室と中予水産試験場との共同で5ー10mgのGHが回収できる方法を開発した。しかし脳下垂体の供給には限界があるので、本研究室において組換えDNA手法による大腸菌と発現ベクターを用いたGHペプチドの効率的な発現生産を行った。

作業についての簡単な説明(赤文字の用語については注釈あり)

 ・脳下垂体からm−RNAの抽出・精製

・・逆転写酵素を用いたcDNAの合成

・・cDNAを鋳型としたPCR

 

・・PCR産物のベクターへの組み込み

・・DNAシークエンサーを用いた塩基配列の確認

・・配列の確認したベクターを用いた大腸菌の形質転換

・・GH遺伝子組換え体の発現誘導

・・SDS−PAGEによる発現タンパクの確認

SDS−PAGEによる発現タンパクの確認を行ったところ、約23kDaの強い発現産物のバンドが確認され、それは全タンパクの約30%を占めた。この量は1Lの培地から250mgのGHが生産されたことになる。 この培養から抽出・精製された組み換えGHの量はリッター当たり50mg程度であった。この収量はこれまでに得られている数ミリグラム/Lに比べ格段に高い。

愛媛県中予水産試験場においてこの精製された組み換えGHを用いて、養殖試験が行われた。これによりGH遺伝子組換え体から得られたハマチのGHが天然物と同一の成長促進効果を持つことが確認出来た。将来的には、このGHを養殖魚に投与し成長を促進したり、魚病の治療に用いたりして、養殖の効率化を図ることが出来ると期待している。

  

用語説明

逆転写酵素(reverse transcriptase);

cDNA(complementary DNA);

PCR (polymerase chain reaction);

ベクター(vector);

形質転換(transformation);

発現(expression);

参考文献 バイオテクノロジー用語小辞典 講談社


沿岸海洋生物にもどる 分子細胞生物学表紙     研究テーマリストのページ