真核細胞の細胞構造と遺伝子発現に関わる細胞骨格・膜系制御因子の単離とその遺伝子のクローニング written by Koichi Shibata (97.Nov.01)
概論:真核細胞の細胞構造と遺伝子発現での細胞骨格・膜の役割
真核細胞においては、細胞内の構造として膜以外に微小繊維、微小管、中間径フィラメントとそれらに会合する因子からなる細胞骨格が発達しており、細胞の成長や分化、物質の輸送・蓄積に重要な役割を果たしていると同時に、細胞骨格にポリソームが会合することによって、翻訳過程の時間的・空間的な制御が行われていることが明らかにされています(Penman,Fey
et al.,1986-1988; Heathkes & Pryme, 1986-1988)。細胞骨格は細胞運動のみならずオルガネラの定置や移動、分泌や細胞内物質輸送、シグナル・トランスダクションなどに重要な役割を果たしています。また細胞の分化や成長、オルガネラの形成において、遺伝子発現の空間構造を制御する役割を担っており、細胞質ポリソームが細胞骨格と結合し、遺伝子発現の空間的制御に関わっていると考えられます。また、膜系が発現の場でもあると考えられる遺伝子でもそのmRNAがFP(フリー・ポリソーム)とMBP(膜結合ポリソーム)にまたがって存在することも知られています。(Biggs
& Avitar 1989)。これらのことは、遺伝子工学的手法による植物の生産性の向上においても細胞骨格を含む遺伝子の空間的発現制御の機構の解明が極めて重要であることを示しています。
その一方で、植物の細胞骨格とそれに結合するタンパク質についての研究は進んでおらず、細胞骨格画分タンパク質の同定とその機能の解析は、細胞骨格の役割を明らかにする上で重要です。 このような研究領域はCytomicsとよばれ、ポストゲノムサイエンスの中心的領域の一つとなっています。
詳しくは研究テーマ1.5.6、CMーコンプレックス、CSB法をご覧になってください。
当研究室の基本的な実験手順の紹介
(本研究室で発見した細胞骨格成分の単離と、遺伝子のクローニング)
1.細胞骨格画分タンパク質の分離
以上のプロトコールで、従来の方法で分画できなかった、多数のタンパク質を分離することができました。
また、得られたタンパク質を、2D−PAGEで解析し、等電点を解析しました。
主なタンパク質については、プロテインシーケンサーを用いて部分アミノ酸配列を得ました。その結果を国立遺伝学研究所のデータベースにて解析したところ、これらは、細胞の生理活性に重要な機能を果たすとみられるタンパク質か、新しい機能を持った新しいタンパク質であることがわかりました。
2.本研究室で発見した細胞骨格画分タンパク質の遺伝子のクローニング
得られた部分配列をもとにプライマーを合成
その一方で、mRNAを精製し、それからcDNA(相補的DNA)を合成
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cDNAを鋳型とするPCR(RT-PCR)
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増幅したDNA断片を回収
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適当なベクターに組み込み、DNAシーケンサーで配列を得る
(欲しいDNAであるかどうかチェック)
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求めるDNAであることが確認されたら、制限酵素で組み込んだDNAを切り出し、回収
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プローブを合成
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別にmRNAを精製、二重鎖のcDNAを合成、λファージDNAに組み込む
(これをcDNAライブラリーと呼ぶ)
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cDNAライブラリー・スクリーニング
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欲しい配列のDNAを持つλDNAを回収、DNAを精製
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インサートを持つλDNAから制限酵素でインサートを切り出し、回収
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適当なベクターに組み込み、DNAシーケンサーで全配列を決定
(欲しいDNAであるかどうかチェック)