通電刺入法 ーー 電気的細胞融合発見への過程

--膜電位測定法参照  プロトプラストの分離法  植物の電気生理学


   プロトプラスト表面の細胞膜は細胞骨格や膜の裏打ち構造などのために弾力性があり、先端が細く尖ったガラスキャピラリ電極を挿入しようとしても膜が電極先端をおおってしまったり、すぐシールされてしまったりして、内部の電位を安定に記録することは予想以上に難しい。、ちなみにこのシールされたときに、プロトプラストになる前の細胞が持つー100mV程度の負のの電位とは大きく異なった+10mVぐらいの正電位が記録されることがあり、これがプロトプラストの膜電位と誤認されることが多い。プロトプラストの調整過程の問題とともにプロトプラストの膜電位が大きく脱分極して記録される重要な問題である。

   そこで、電極刺入に先立ち、細胞膜に電極の先を触れさせて1−10mMのCaイオンの存在下で1−5msのパルス電流を過渡電流抑制回路(図ー2)を通して細胞膜に印加する。これにより、プロトプラスト表面に電極が接触した点を中心に、細胞膜を含めたサイトゲル層が同心円上に最大数+ミクロンの収縮性の穿孔が生じるとともにプロトプラストの細胞質の運動が停止し、この生じた穴からスムーズに電極を刺入することが出来る。この穴は数秒後に自発的に収縮してシールされ電位記録が開始される。 この穿孔は、車軸藻プロトプラストにおいては、エクトプラズムにある葉緑体の配列が同心円状に収縮し円形の窓があくようすが低倍率の光学顕微鏡で容易に観察できる。したがって、この通電刺入時の穿孔はエクトプラズムの収縮運動すなわち細胞運動を伴ったものあると考えることが出来る。 分子レベルの誘電破壊による穿孔よりはるかにマクロな現象であることに留意すべきである。 この細胞膜のCaイオン依存性の可逆的穿孔は電気刺激による細胞融合、すなわち電気的細胞融合の発見につながった。ーー>電気的細胞融合のメカニズムの研究のページへ

図ー1 通電刺入の手順の模式図

通電刺入の手順

1  ガラス微小電極を細胞表面に軽く接触させる

2  5mS程度のパルス電流をガラス微小電極に印加する(注1)

3  1秒以内に原形質流動が停止するとともに電極先端部近傍にエクトプラズムの後退による穿孔が同心円状に広がる。

4   この穿孔が収縮を開始しないうちに(通常通電後1−3秒)微小電極を液胞内までスムーズに刺入する(注3)。

5  刺入位置まで進めたらマニプレータから手を放し、穿孔が閉じるのを静かに待つ。この時点では、通常、膜電位は脱分極状態にある(注2、注4)。

6  原形質流動が観察される細胞の場合は原形質流動が回復し細胞の静止電位が記録される(注2)。

 

注1:  パルスの大きさは細胞やカルシウムイオン濃度などによって異なるので、別に最適化しておく必要がある。

注2:  リフラクトリー(refractory period)の存在に留意する必要がある。いき値以上のパルスすなわち穿孔を生じる大きさのパルスを一度でも細胞表面に印加すると、膜がシールした後でもしばらくの間、再穿孔できない。

注3:  通電後の刺入開始が早すぎると穿孔が充分に発達していないことがあり、電極が膜に引っかかるなどしてスムーズな刺入が出来ない。

注4:  もし、通電による穿孔が拡大を続け収縮しないときやプロトプラストが壊れてしまうときはカルシウムイオン濃度を上げる。  逆に、穿孔が短時間過ぎて(例えば1秒以下)電極を刺入する時間が十分に取れないときや刺入までに閉じてしまうときはカルシウムイオン濃度を下げる。

 

図ー2 膜電位測定および通電を高速で切り替えるための回路をそなえた膜電位測定装置

 

図ー3 通電刺入における過渡電流を抑制し、細胞膜の損傷を防ぐ。

Fig 2. A CR filter used for reducing large transient currents accompanying negative and positive going edges of the applied voltage pulse. The filter is composed of C and R (time constant is O.22xlO~3 sec); Rs, a resistor for adjusting the magnitudes of current flowing; E, counter electrode; Cs and Cs2, equivalent stray capacities; A current sensing amplifier, Insert: Applied voltage pulses between V and ground (A) and currents resulting from the applied voltage pulses at V (B) are schemat- ically shown. When the CR filter was not used, large transient currents were observed (traces a, for the voltage pulse and C, for the current). when the CR filter was used, large transient currents almost were not developed (traces b, for the voltage pulse and d, for the current).

 

2. Abe, S., J. Takeda, and M. Senda. Resting membrane potential and
action potential of Nitella expansa protoplasts. Plant Cell Physiology 21: 537-
546 (1980).

3. Electrophysiological Studies on Cytoplasmic Membrane of Plant Cells
and Protoplasts. 1982年 98ページ  学位論文

6. Abe, S. and J. Takeda. The membrane potential of enzymatically 
isolated Nitella expansa protoplasts as compared with their intact cells.
Journal of Experimental Botany 37: 238-252 (1986).

 


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