植物の電気生理学ー植物細胞機能の生物物理学的アプローチ  1998年4月9日13:50更新

Electrophysiology of Plant Cells and Protoplasts   

 

膜電位

 細胞膜電位の測定法は1910年頃にOsterhautによって、細長い単細胞の節間(10−40cm)を持つ植物である車軸藻において確立され、さらに彼らはこの植物は動物の神経のような急激な過渡的膜電位変化(活動電位:action potential)を起こし、これが細胞全長にわたって伝播することを示しました。この植物の活動電位の伝播は細胞領域をこえて跳躍して伝導することも明らかにし、動物の有髄神経の絶縁体であるミエリン鞘の役割を解き明かす重要な発見となりました。 動物の有髄神経におけるミエリン鞘の役割の解明は活動電位をだす長い細胞の節間をもつ車軸藻の一種を用いて証明されました。すなわち、そのような細胞の一部を殺して活動電位が細胞内を伝わらないようにしさらにその部分をワセリンで絶縁することにより興奮によるインパルスに基く電流が外液をながれて他の生きている部分に直接つたわる、すなわち跳躍伝導することがOsterhaut(1929)により示されました。のちに植物の電気生理学的手法はイカの巨大神経の興奮のメカニズムの解明へと応用され、HodgkinとHuxleyの神経興奮のメカニズムに関する集大成(ノーベル賞)へと発展していきました。

 膜電位の測定には、電極を細胞外部に置く外部電極法と細胞内へ刺入する内部電極法があります。内部電極法には刺入する電極として3MKClなどの強電解質溶液を充填したガラス毛細管電極などが使われます。この、内部電極法は直接的な細胞膜電位の測定法で、一般的に細胞レベルの正確な現象をつかむことができます。心電図などは、組織表面に張りつけた電極により、体内で起こる神経興奮現象によって漏洩してくる電流あるいはイオン流が引き起こす細胞外電位変化などを測定して神経や筋肉の収縮を調査するものです。1970年頃からカエルの足などや切断した筋肉や神経に観察された電気現象は、細胞内の電位、活動電位、やイオン流などが切断面から漏出して形成された”傷害電流”によるものが主体であるといわれています。

 

 植物細胞においては、細胞膜が、多量の電荷をもった細胞壁と密着しているため細胞膜外側近傍のイオン環境は外液とはかなり異なる場合がでてきます(文献1、3)。平衡電位への影響は少ないものの、速度論的には無視できない影響を与えています。このため、植物細胞から細胞壁を除去したプロトプラストでの細胞膜電位の測定が重要な意味を持ってくるわけです。細胞壁は一般に大きな負電荷を持っているのでキレートしやすい多価カチオンにおいて影響が大きくなります。とりわけ、細胞壁を取り去ることによって膜電位のCaイオンに対する感受性が著しく増大し、とくに活動電位の大きさや速度が外液のCaイオン濃度に大きく依存するようになります(文献1,2)。このカルシウムイオンへの感受性は細胞膜の安定性や収縮にも関係しており、この性質を応用して電気刺激により細胞融合を誘導したり(電気的細胞融合)、DNAなどの巨大分子を細胞に取り込ませたり(遺伝子導入)することができる。

 このような電気的遺伝子操作の手法は、動物、植物、細菌など幅広い生物の育種や形質転換に利用されている。また抗体生産性のリンパ球と増殖力の強いリンパ球のストレイン(ミエローマ細胞)とを電気的に融合して抗体の大量生産株の作出に使われている。

 車軸藻などのように活動電位を出す興奮性細胞が連なっている場合、細胞間を電気パルスが伝わっていくことがある。このような活動電位による情報伝達は、高等植物において遺伝子発現の変化を誘導し環境応答に関わっていることが次第に明らかになっています。-->高等植物の活動電位と遺伝子発現--> Dr.Eric Davies (North Carolina State University)のホームページ

参考文献

1  Electrophysiological Studies on Cytoplasmic Membrane of Plant Cells and Protoplasts. 1982年 98ページ(学位論文) 

2. Abe, S., J. Takeda, and M. Senda. Resting membrane potential and action potential of Nitella expansa protoplasts. Plant Cell Physiology 21: 537-546 (1980).

3. Abe, S. and J. Takeda. The membrane potential of enzymatically  isolated Nitella expansa protoplasts as compared with their intact cells. Journal of Experimental Botany 37: 238-252 (1986).


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